徒花
コウがやってきたのは、それから5分ほどが経った頃だった。
ダボくんはコウと入れ違うようにその場を去った。
コウは私を抱き締める。
「いきなりいなくなるなよ。すげぇ探したんだ。事故に遭ってたらどうしようとか、誰かに拉致られてたらどうしようかと、色んなこと考えた」
「………」
「とにかく見つかってよかった。ほんと安心した」
コウの体はあつく、ひたいは汗ばんでいた。
それだけで、今の言葉が嘘ではないのだと思った。
だから余計に苦しくなった。
見つかればこうなるとわかっていたからこそ、どこか知らない場所に逃げたかったのに。
なのにまた、同じことが繰り返されるのだろうか。
そう思った瞬間、
「触らないでっ!」
気付けば私は声を上げていた。
コウは一瞬ひどく驚いて、でもすぐに少し悲しそうな顔で体を離し、
「悪ぃ。もうしねぇよ。触らねぇから」
私はいたたまれなくなり、堪らず顔を俯かせた。
コウは恐る恐るといった様子で、私の指先だけをちょこんと摘まんだ。
「マリアが嫌ならもう何もしない。でも、お前のこと絶対に見捨てもしない」
「………」
「たとえば今、マリアの心の中に別のやつがいるとしてもいいんだ。それでも俺は、お前の傍にいるから」
思い出す、あの恐怖。
「俺は何も望んでねぇよ。見返りがほしいわけでもない。ただ、お前の一番近くにいられればそれでいいんだ」