徒花


コウは帰りに、いつもと同じようにボスのお墓に寄った。

そしてボスの、木の枝を立てただけの墓前に手を合わせ、



「ばあちゃん、死んだんだ?」


私の方を見ずに聞いてくる。



「風邪をこじらせたんだって。最期まで私には知らせないようにみんなに言ってたらしいよ」

「………」

「でもね、叔父さんたちが私に言うの。『マリアが毒でも盛ったんじゃないのか?』、『薄汚い人殺しめ!』って」

「………」

「叔父さんたちはお金のことばっか。おばあちゃんの死を悼む気持ちもない。自分たちはおばあちゃんのこと嫌ってたくせに、こんなことになったのは私の所為だって」

「死刑だな、そりゃ」


コウが言うと冗談に聞こえない。

でも、こんな時だからか、私は笑った。


笑っていなければ心が千切れてしまいそうだったから。



「ばあちゃんにも来てほしかったな、俺らの結婚式に」


こんな状況なのに、コウはまだそんなことを言う。

そしてコウは私の頭を引き寄せ、



「ごめんな、マリア。ひとりで辛かったよな?」


コウの言葉が、千切れかけた心のひだに沁みていく。

私は涙を堪えながら首を振った。



「でももう、これからは、何があっても俺にちゃんと言ってくれ。どんな些細なことでもいいから、ひとりで抱え込もうとするな」

「………」

「お前は『ただの泣き虫』なんだから」


いつかのおばあちゃんとの会話を思い出す。

けれどもう、あの頃には戻れない。

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