徒花


「できたよー」


作った料理をテーブルに並べる。

味噌汁と、焼き魚と、煮物。



「和食だ」

「嫌い?」

「いや、あんまり食わないだけ」

「味は自信あるから食べてみてよ。おばあちゃん直伝だし」

「すげぇな」

「そうでもないよ。私、和食しか作れないから。それに、別に料理好きってわけでもないし」

「いや、でも、すげぇよ」


コウは「いただきます」と言って箸をつけた。

私は向かいに座って紅茶を飲む。



「なぁ」

「んー?」

「じゃあ、親が死んでからは、ばあちゃんと暮らしてたってこと?」

「中三まではね。高校に入学する時に、私ひとりでこっちに来て、それからは」

「ばあちゃんは?」

「今は老人ホームで悠々自適に暮らしてるよ。終の棲家にするんだって。恋人までいるみたいよ。月に一回は会いに行ってるけど、楽しそうにやってる」

「ふうん」


コウは味噌汁をすすりながら、「美味いな」と言った。

おばあちゃんの味を褒められたみたいで、私は嬉しくなった。



「私ね、おばあちゃんのこと大好きだし、育ててもらって感謝もしてるの。ほら、私みたいなのって、一歩間違えば施設で暮らしたりっていう話も聞くし」

「あぁ」

「だからさ、おばあちゃんにだけは心配かけないようにしなきゃ、って。恩返しとかもしたいんだけど、なかなかね」


コウは上目に私を一瞥し、



「恩とかそういうの、俺よくわかんないんだけど」
< 18 / 286 >

この作品をシェア

pagetop