徒花
私がコウを嫌う理由はもうなくなった。
じゃあ、私たちは、一体何のために別れたのだろう。
もしかして、これがカイくんが望んでいたことだったのだろうか。
考えたってちっともわからない。
カイくんが私を嫌いだとしても、ここまでされるほど、憎まれる理由に心当たりなんてない。
「ごめんなさい」
帰宅して、私はコウにそう言った。
「謝らなくていい。さっきも言ったけど、マリアは何も悪くない」
「でも……」
「俺はただ、お前が隣で笑っててくれればいいんだ。それだけでいいから」
「………」
「だからマリアは、俺にしてほしいと思うことを言えばいい。何だっていいんだ。クスリ以外なら、何だって」
「………」
「もしもお前が死にたいって言うなら、一緒に死んでやるよ。地獄を望むなら、ひとりでは行かせないから」
引き寄せられた。
コウのぬくもりは、あの頃と同じだ。
「レイプされたような女と、それでも一緒に死のうだなんてほんとに思える?」
「言わなくていい。もう二度と言うな」
「それは私のことを可哀想だと思うから?」
言いたくないのに、口から漏れる。
「コウにわかるはずなんてない。女の私の気持ちなんて、理解できるはずがない!」
ダボくんは『コウに頼れ』と私に言った。
だけど私は、それじゃあコウを苦しめるだけなんじゃないかと思う。
たとえ、カイくんがどんな理由であんなことをしたとしても、されたことが消えるわけではないのだから。
それはいつか、私とコウの間にまた亀裂を生むことになりそうで。