徒花
決別
7月、最後の日。
今までずっと私と一緒に部屋で過ごしていたコウが、珍しく出掛け、夕方に戻ってきた。
けれどすぐに、「ちょっと来て」と私の手を引いた。
何が何なのかわからないまま、私は部屋から連れ出された。
そして連れて来られた場所は、ショットバー。
ここに来るのも久しいなと思っていたら、構わずコウはドアを開けて中に入っていく。
いつもは賑わっているはずの店内は、まるで閉店後みたいに薄暗く静まり返り、人のひとりもいやしない。
「どういうこと?」と、聞いたのに、答えないままのコウ。
だから仕方がなくそこに佇んでいると、5分ほど経った頃、ダボくんがやってきた。
私は少しほっとした。
「うぃーす。っていうか、何? まさか貸し切りにでもした?」
でも、ダボくんは驚くでもなく、勝手にカウンターの中に入り、適当な瓶を手に酒を作り始めた。
コウは無視して、険しい顔で煙草を咥える。
だけど、ダボくんはやっぱりそれを気にしない。
それからさらに5分ほどが過ぎた頃、またドアが開いて、入ってきたのはユキチくんとカイくんだった。
私は本能的に足を後退させる。
コウが何を考えているのかわからない。
嫌な予感がしたその時、沈黙を破ったのはユキチくんだった。
「何だよ、コウ。いきなり俺らのこと、こんなとこに呼び出して。俺は忙しいんだっつーの」
煙草を消したコウは、やっと口を開いた。
「話があるんだ」
「だからそれはさっきも電話で聞いた。さっさと言えよ。わざわざ俺らを呼び出してまで、こんな改まってする話って何だよ?」