徒花
ユキチくんは時計を一瞥しながら、苛立っていた。

でもコウはそれを無視し、カイくんを見る。



「カイ。てめぇは話の内容、わかってんだろ?」

「何? 3年前に俺がコウのサングラス壊した話なら、あれは謝ったし、もう時効だろ」

「とぼけてんじゃねぇよ」

「何だよ、怖い顔しちゃって。今更、買って返せとでも?」


それでもはぐらかそうとするカイくんに、コウは舌打ちを吐き捨てながら、



「てめぇ、マリアに何した」

「はぁ?」

「カラオケ屋で、俺がいない隙に、俺の所為にして、てめぇは後輩共を使ってマリアをヤッただろうが!」


カイくんはぴくりとも表情を動かさない。

でも、驚いた顔をしたのはダボくんとユキチくんだった。


さすがのユキチくんもそれを制する。



「おいおい、コウ。いい加減にしろよ。カイが何だって? お前、自分が何言ってるわかってんのかよ?」

「てめぇに言ってねぇだろ」

「呼び出した時点で俺のことも巻き込んでんだろ! つーか、お前それ、冗談になってねぇぞ!」

「冗談でこんなこと言わねぇよ」

「あ? じゃあ、てめぇは本気でそんなこと言ってるってか?! ふざけんなってんだよ!」


ユキチくんはその辺にあった椅子を蹴り飛ばした。

ガンッ、という大きな音に、私はびくりと肩を上げる。



「お前、マジで頭おかしいんじゃねぇの?! 大体、何でその子とヨリ戻してんだよ?! わっけわかんねぇ!」

「………」

「クスリしてた女だぞ?! 俺、さんざん反対したよな?! そんな女とまだ一緒にいて、おまけにカイがどうのって、まさかてめぇまでクスリでもやってんじゃねぇだろなぁ?!」

「………」

「何で俺ら4人がこんな話で言い合わなきゃならないんだよ! 今までこんなことなかったろ! その子がいる所為でおかしくなるんだよ! 目覚ませや!」
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