徒花
カイくんはコウに目をやる。

ひどく濁った色をしている瞳で。



「『マリアに何した』だっけ? お前こそ、千夏に何したよ?」

「……え?」

「あいつこの前、お前との子供、堕ろしたよ」


コウは目を見開いた。



元カノの、千夏さん。

あの、コウが私を選んだ日に?


じゃあ、カイくんが『病院に行くため』に地元に戻ってたっていうのは、まさか。



「……どうしてお前がそんなこと……」

「カイと千夏は幼馴染だ」


カイくんの代わりにユキチくんが答えた。



「俺ら3人は小学校から一緒だった。だから俺も千夏のことはよく知ってる。カイと仲よかったのも、全部」

「………」

「カイは千夏のことが好きなのかなぁ、とは、薄々は感じてた。でも、カイは何も言わなかった。それから高校に入って、俺がコウに千夏を紹介して、ふたりは付き合うことになって」

「………」

「でも、カイも祝福してたから、俺の思い違いだったと思ってた。けど、そうじゃなかったってことだな」


ユキチくんの問いに、カイくんは自嘲気味に笑った。

少し悲しそうな顔で。



「そうだよ。俺はずっと千夏がいてくれればいいと思ってた。たとえ恋人なんかになれなかったとしても、一番近くにいられるならそれでいい、って」

「………」

「コウと付き合うって知った時はショックだった。でも、コウは親友だし、いいやつだから、って必死で自分に言い聞かせて。何より千夏が幸せならいいと思ってたんだ」

「………」

「一年前、ふたりが別れるって聞いて、それがコウの所為だって知って、すげぇムカついた。でも、反面で、別れてよかったとも思った」
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