徒花
「え?」

「だってそうだろ。別にこっちは産んでくれとか頼んでないのに親が勝手に産んだわけじゃん? だから育てる義務があって当然だし」

「………」

「で、親が死んだなら、親の親が責任取るのも当たり前じゃね? それってこっちが恩を感じなきゃいけないことなの?」


コウは、私が考えてもみなかったことを、『当然だ』と言う。

私は眉根を寄せた。



「どう思うかなんて、人それぞれでしょ」

「………」

「私は少なくとも、おばあちゃんに対して『さっさと死んでくれ』なんて思わないけどね」


コウは目を伏せる。


この人は、親にそこまで思うほどの、何を抱えているのだろう。

今度こそ聞こうと思ったけれど、でもこれ以上、空気を悪くしたくはない。



「やめようよ、こんな話は」

「だな」


苦笑いのコウは、食事を終え、箸を置いて「ごちそうさま」と手を合わせた。

私は食器を片づけながら、



「ビール、飲むでしょ?」

「おー」


ソファに移動して、ローテーブルに缶ビールをふたつ置く。

コウの目はその瞬間にギラギラしたものになった。



「飲み潰してやるから覚悟しとけ」

「嫌だよ。何されるかわかったもんじゃない」

「うるせぇ。朝までコースだ」

「それ、もっと嫌だから」


なんて言いながらも、私たちは手早くプルタブを開けて乾杯した。

酒のおかげで場がなごむ。


私はビールを一気に喉の奥に流し込んだ。
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