徒花

兄弟



すっかり残暑もなくなり、風が秋めいたものになってきた頃。

馴染みの店を失った私たちは、ほとんど毎日のように、近所の居酒屋にいた。


コウはいつも通りを演じているが、時折、空元気に見える。


私はそれが心配だった。

ダボくんも、言葉にはせずとも心配していると思う。



「コウ、飲み過ぎ。ビールはジュースじゃない」


ダボくんはコウのグラスを取り上げた。

コウは小さく舌打ちする。


静かすぎて嫌になる。


いつも騒がしかったユキチくんも、事あるごとに嫌味を言っていたカイくんもいない。

大切なものが欠けてしまったみたいなコウに、覇気はない。



「なぁ、この後、どこ行く? 俺、いいダーツバー見つけたんだけど」

「ビリヤードじゃ俺に勝てないって諦めて、今度はダーツか?」

「うるさいっつの。俺は『勝てない』んじゃなくて、コウが怒るから、わざと負けてやってんだよ」

「はいはい。ダボくんは言い訳がお上手でちゅねー」

「馬鹿にしやがって」


ぴりぴりしていた。

誰も何も言わないのに、いつも微妙な空気になる。


欠けてしまったものの所為で、徐々に何かがずれていく。



そんな時だった。



「あれ? コウじゃねぇかよ」


背後からの声に振り向いて、驚いた。

前に一度だけ会ったヤクザ――菅野さんとやらが、今日はひとりでこんなしけた店に入ってきたから。


菅野さんは上機嫌で私たちのいるボックス席に近付いてきた。
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