徒花
「いい飲みっぷりだねぇ」


にやにやと笑ったコウは、



「よしっ! じゃあ今日は、とことん腹割って話そうぜ!」

「えー?」

「『えー?』じゃねぇよ」


酒がスイッチになったのか、コウはいきなり楽しそうだ。

私はテーブルに頬杖をつく。



「私には割るほどの腹なんてないけど」


言ったのに、聞いちゃいないコウは、



「なぁ、何でキャバ辞めたの? 折角、ナンバーワンだったのに」

「だからぁ、あれはほんと暇潰しでやってただけで、好きでナンバーワンになったわけじゃないし。で、しつこいお客もいたし、面倒くさくなったから、辞めたの」

「もったいないねぇな」

「そう? たかがバイトじゃん」

「『たかが』って」

「だってそうでしょ? 仕事なんかに縛られたくないし、嫌になったら辞めて何が悪いの?」

「まぁ、そりゃそうだ」

「私は、働きたくなったら働くし、遊びたくなったら遊ぶ。そうやって生きてきたし、それでいいの」


でも、だからこそ、毎日つまらないのだけれど。



「それより、そっちこそ何やってる人なの? 毎晩のようにあのお店にいるみたいだけど、仕事とかしてんの?」

「俺はほら、自由人だから」

「何それ?」

「自由に生きることが俺の仕事、みたいな?」


よくわからない男だ。

やっぱりチャラチャラした見た目の通りなのだろうか。


私は肩をすくめてまた酒を流す。

< 20 / 286 >

この作品をシェア

pagetop