徒花
「え?」


私たち3人の、驚く声が重なった。



「カイは今、永友の叔父貴の下についてる。俺の下じゃねぇってのが、いけ好かねぇが」


カイくんが、ヤクザに?

今更になって、あの時言っていた『許さない』という言葉の本気さを知る。


カイくんは何をする気なのだろう。



「ってことは、お前ら、ユキチってのが行方不明になったって話も、マジなのか?」

「……行方不明?」

「カイが言ってたけど、冗談だろって笑って流したが。お前ら、ほんと何があったんだよ?」


菅野さんは神妙な顔で聞いてくる。

私たちは答えられず、顔をうつむかせた。


カイくんがヤクザになって、ユキチくんが行方不明だなんて、私たちの知らないところで何が起こってるっていうの?



「おいおい、どうしたよ? そんな顔して、まさかあれだけ仲よかったお前らが仲互いしたわけでもねぇだろ?」


それでも何も言わない私たちを見て、菅野さんは「マジでか」と苦い顔。



「とにかく、お前らがどんな仲になってどう遊ぼうと勝手だが、こっちに迷惑だけはかけるなよ」

「………」

「この前のショットバーの火事だってお前らの仕業だろう? カイは『知らない』って言ってたが、警察はあれがうちの組の人間が放火した所為だとか言い出してなぁ」

「………」

「あらぬ疑いを掛けられて、余計な聴取されたんだ。向こうは何でもいいから理由をつけて俺らを引っ張ろうって魂胆らしいが、とんだとばっちりだぜ」

「………」

「まぁ、コウがうちの組に入るって言うなら、水に流してやるが」

「入らないって言ってるっしょ? 火事だって何の話だか」


睨んだコウに、「はぐらかしやがって」と吐き捨てた菅野さんは、咥えていた竹串をぽいと投げ捨て、



「気が変わったら電話して来い」


とだけ言い、店を出た。

私たちはそれからしばらく言葉を持てなかった。

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