徒花
「どうする? コウ」
やっと沈黙を破ったのは、ダボくんだった。
「何がだよ?」
「カイがヤクザで、ユキチが行方不明。これ、さすがにやばくね?」
「まぁ、カイはともかく、ユキチのことは心配だな」
「カイのことだって心配だろうが!」
ダボくんが声を上げたのなんて初めて見た。
コウも驚いた顔をする。
「ヤクザになったんだぞ?! あれほど嫌がってたあいつが! 自分の人生を捨ててまで!」
「………」
「あいつは本気なんだよ! 本気でお前に復讐しようとしてる! じゃなきゃ、そんなもんになるはずがない!」
「………」
「お前だって危ないだろ! いや、お前だけじゃない! マリアちゃんだって何されるかわかんねぇんだぞ!」
「………」
「あいつはあいつなりの道を進み続けてんだよ! 振り返りもせずに、突き進んでる! やばいことになったらどうすんだよ! 何かあってからじゃ、取り返しがつかねぇだろ!」
「じゃあ、どうやって止めろって言うんだ?」
「それは……」
急に口ごもったダボくん。
コウはバンッとテーブルを叩いた。
「それくらい俺だってわかってるよ! けど、あいつが何考えてるかわかんねぇ以上、どうにもできねぇだろ! 具体策もなしにキレてんじゃねぇよ!」
ダボくんはぐっと唇を噛み締めた。
どうしてこんなことになってしまったのだろう。
後悔だけに今も取り憑かれているような私たちを残し、時は進み続けている。
巻き戻すことのできない針は、そして――。