徒花
「ぼくね、知ってるんだよ。お兄ちゃんは、いつもぼくのためにわざと悪者になってくれてるってこと。自分が嫌われる方がぼくのためになると思ってるんでしょ?」

「違ぇよ。俺はやりたいようにやってるだけだ。ふざけんな」


悪態をつきながらも、コウは顔を覆った手をどかさない。



「お前なんか大嫌いだ」

「でもぼくはお兄ちゃんのこと好きだよ」

「お前が生まれてきた所為で、全部めちゃくちゃになったんだ」


マサくんは、途端に悲しそうな顔になった。


コウは拳を作る。

でも、その迷いの帯びた手で、マサくんを抱き締めた。



「お前なんか大嫌いだ」


もう一度言いながらも、言ってることとやってることが全然違った。

私は後ろで、思わず小さく笑ってしまう。


マサくんもコウの体をぎゅっと抱き締め、



「お兄ちゃん、結婚するんでしょ」

「……え?」

「あのね、その袋の中に、恋愛成就のお守りがふたつ入ってるの。ひとつはそのお姉ちゃんにあげて。お兄ちゃんとお揃いだよ。ふたつあれば効力二倍だから」


マサくんは体を離した。



「お兄ちゃんはね、幸せになっていいんだよ。自分のために、幸せになって」


マサくんは私のところへ来る。

私は子供の前だというのに委縮した。



「ふつつかな兄ですが、よろしくお願いします」


頭を下げられて、笑ってしまった。

笑いながら、涙が出た。



「ありがとう」
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