徒花
コウは「ませガキが」と言いながら、マサくんの頭をくしゃくしゃにする。


私たちは、きっと、難しく考えすぎていたのだと思う。

今までずっと、私なんかが、と思っていたが、初めて救われたような気がした。



コウは財布を取り出し、札をマサくんに押し付ける。



「帰って参考書でも買え」

「え? でも……」

「いいから。あと、親父たちに何か言われたら、俺に呼び出されたって言え。間違っても、自分からここに来たって言うな」

「お兄ちゃん?!」

「うるせぇなぁ。親父の文句は慣れてるし、別にお前のためとかじゃねぇから」


じゃあ、何のために?

と、いうのは、愚問だから聞かないでおく。


コウは最後に言った。



「さっきは怒鳴って悪かったよ。来てくれてありがとな。あと、このお守りも」

「うん」

「でも、もう二度と、ひとりでここには来るな」

「じゃあ、お兄ちゃんも、約束してよ。電話したら出るし、メール送ったら返してくれる、って」


強く言われ、コウはしぶしぶといった顔でうなづく。



「わかった。約束する。だからもう帰れ」


コウはマサくんの体を反転させ、その背をぽんと押した。

マサくんは振り返る。



「またね、お兄ちゃん」


満面の笑み。


コウは片手を上げた。

私たちは、マサくんの後ろ姿が見えなくなるまで見送った。

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