徒花
どれくらい経っただろう、コウは私に顔を向ける。
「あいつさぁ、馬鹿だよなぁ。俺なんかのために、わざわざひとりでこんなとこまで、こんなもん渡しにきてさ」
コウは紙袋を漁り、中から取り出したお守りのうちのひとつを、私に手渡す。
ピンク色の、【恋愛成就】と書かれたそれ。
「お守りってさ、何個もあると逆に潰し合うって知らねぇのかよ。それなのに、こんなにいっぱい買いやがって」
「でもそれだけコウのことが好きってことでしょ」
「俺は嫌いだけどね、あんなガキ」
「素直じゃないなぁ」
「うるせぇっつの」
言い合いながら、ふたりで笑った。
笑ったのなんて久しぶりだった。
それだけで、少し楽になれた気がした。
「いい子だよね、マサくん。コウと血が繋がってるとは思えない」
「何? それは俺が性格悪いって言いたい?」
「まぁ、よくはないよね」
「そうか、そうか。喧嘩売ってんだな?」
じゃれ合って、また笑って。
まるで出会った頃に戻ったようだ。
私はピンク色のお守りを眺める。
「色んなこと忘れてたね、私たち」
「だな」
「初めは、ふたりで幸せになりたいと思っただけだったのにね」
コウは息を吐き、自分の手の中にある、私とお揃いのお守りに目をやって、
「俺さ、ほんとのこと言うと、ずっと怖かった。カイは何を考えてるんだろう、何をされるんだろう、って」
「うん」
「けどさ、マサに言われてわかったんだ。俺はただ、お前といたいだけなんだよな、って。そんで、結婚したい。その気持ちは、カイに邪魔されたってもう壊れねぇ」