徒花


どれくらい経っただろう、コウは私に顔を向ける。



「あいつさぁ、馬鹿だよなぁ。俺なんかのために、わざわざひとりでこんなとこまで、こんなもん渡しにきてさ」


コウは紙袋を漁り、中から取り出したお守りのうちのひとつを、私に手渡す。

ピンク色の、【恋愛成就】と書かれたそれ。



「お守りってさ、何個もあると逆に潰し合うって知らねぇのかよ。それなのに、こんなにいっぱい買いやがって」

「でもそれだけコウのことが好きってことでしょ」

「俺は嫌いだけどね、あんなガキ」

「素直じゃないなぁ」

「うるせぇっつの」


言い合いながら、ふたりで笑った。

笑ったのなんて久しぶりだった。


それだけで、少し楽になれた気がした。



「いい子だよね、マサくん。コウと血が繋がってるとは思えない」

「何? それは俺が性格悪いって言いたい?」

「まぁ、よくはないよね」

「そうか、そうか。喧嘩売ってんだな?」


じゃれ合って、また笑って。

まるで出会った頃に戻ったようだ。


私はピンク色のお守りを眺める。



「色んなこと忘れてたね、私たち」

「だな」

「初めは、ふたりで幸せになりたいと思っただけだったのにね」


コウは息を吐き、自分の手の中にある、私とお揃いのお守りに目をやって、



「俺さ、ほんとのこと言うと、ずっと怖かった。カイは何を考えてるんだろう、何をされるんだろう、って」

「うん」

「けどさ、マサに言われてわかったんだ。俺はただ、お前といたいだけなんだよな、って。そんで、結婚したい。その気持ちは、カイに邪魔されたってもう壊れねぇ」
< 209 / 286 >

この作品をシェア

pagetop