徒花
酒の力は恐ろしい。
わりと強い私でも、さすがに4杯目ともなれば、ペースダウンする。
でもコウは、まだまだ余裕そうだった。
このペースにはさすがについていけない。
確実に私は、朝になる前に、宣言通り、潰される。
「何でそんなに強いのよ」
「恐れ入ったか? 素直に負けを認めれば許してやる」
「うるさーい」
わめきながらも、自分が酔っ払っているという自覚はあった。
手が止まる私を、にやりとした目で見たコウは、
「まさか、もうギブか? 寝たら犯すぞ」
「寝ないわよ! っていうか、そう堂々と犯罪予告しないでよ!」
無理やり酒を飲んだ。
「わかったよ。嘘だって。もういいから、マジでやめとけ」
私の手から缶を奪ったコウは、急に真面目な顔をする。
先ほどまでのいたずらな笑みはない。
コウは咥え煙草で私の頭をくしゃくしゃっとしながら、
「俺、やっぱ今日はもう帰るわ」
「……え?」
「このままだと、お前、ほんとにやばそうだし。したら、俺、何もしない自信ないもん」
そしてコウは、ビールの空き缶に煙草を落とした。
ジュッ、と焦げたような匂いがする。
それにコウの独特の甘い香水の匂いが混じり、クラクラさせられる。
「ほんとに帰るの?」
「おー」