徒花


酒の力は恐ろしい。

わりと強い私でも、さすがに4杯目ともなれば、ペースダウンする。


でもコウは、まだまだ余裕そうだった。


このペースにはさすがについていけない。

確実に私は、朝になる前に、宣言通り、潰される。



「何でそんなに強いのよ」

「恐れ入ったか? 素直に負けを認めれば許してやる」

「うるさーい」


わめきながらも、自分が酔っ払っているという自覚はあった。

手が止まる私を、にやりとした目で見たコウは、



「まさか、もうギブか? 寝たら犯すぞ」

「寝ないわよ! っていうか、そう堂々と犯罪予告しないでよ!」


無理やり酒を飲んだ。



「わかったよ。嘘だって。もういいから、マジでやめとけ」


私の手から缶を奪ったコウは、急に真面目な顔をする。

先ほどまでのいたずらな笑みはない。


コウは咥え煙草で私の頭をくしゃくしゃっとしながら、



「俺、やっぱ今日はもう帰るわ」

「……え?」

「このままだと、お前、ほんとにやばそうだし。したら、俺、何もしない自信ないもん」


そしてコウは、ビールの空き缶に煙草を落とした。

ジュッ、と焦げたような匂いがする。


それにコウの独特の甘い香水の匂いが混じり、クラクラさせられる。



「ほんとに帰るの?」

「おー」
< 21 / 286 >

この作品をシェア

pagetop