徒花
コウの手からそれを奪い取ろうとした。

でもコウは、私の手をかわし、



「マリアが本当にこれを捨てたいと思ってるなら、捨てればいい。でも、俺のためにそうしようと思うなら、やめとけ。いつか絶対、後悔するから」

「……え?」


コウはまた写真に目をやる。



「俺はお前の過去も含めて受け止めたいんだよ。過去があるから今のマリアがあるんだし」

「………」

「そりゃあ、嫉妬する気持ちもあるけどさ。でも、マリアにとっては、テツ先輩の存在って、すげぇ大きいもんだと思うんだよ」

「………」

「ただの元カレとかじゃなくて。あんなことがなかったとしてもだよ。この写真見てたらわかるから」


泣きそうになった。

でも、コウの前で、てっちゃんを思い出して泣いていいはずはない。


歯を食いしばったら、何も言えなくなった。



「俺、テツ先輩のこと好きだったよ」

「……え?」

「かっこいい人だなぁ、って、昔憧れてたんだよ。もちろんそれは、クスリやってたことも、マリアと付き合ってことも知らなかった頃だけど」


コウは懐かしそうな顔で目を細める。



「めちゃくちゃな人だったけど、俺ら後輩にはよくしてくれて。色んなこと教えてもらったから、感謝もしてる」

「………」

「だから、お前がテツ先輩を好きになる気持ちもわかるんだよ」


堪えていた涙の一筋が頬を伝う。

それでも私は泣かないように努めた。


てっちゃんとの楽しかった日々を振り払いながら。



「なぁ、マリア。聞かせてよ、お前の正直な気持ちを」
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