徒花
それからの部屋の片付けは、すべてコウがやってくれた。
私は泣いてばかりだった。
コウは私の前では、何事もなかったみたいに振る舞ってくれる。
私は罪悪感を感じずにはいられない。
だからって、今更てっちゃんとの話を蒸し返せるわけもなくて。
そしてそれは、一週間ほど過ぎた、ある日のこと。
「おー。マジか。わかった。急いでそっち行くわ」
ふたりで買い物をしている時に掛かってきた、ダボくんとの電話を切ったコウは、私に向き直り、
「行こうぜ」
「え? 何?」
「いいから。早くしろって。時間ねぇんだよ」
急かされ、手を引かれた。
私は慌てて商品を棚に戻し、
「どこ行くの? 時間がないってどういうこと?」
矢継ぎ早に聞いた私に、だけどもコウは押し黙る。
そして少しの沈黙の後で、
「N駅に」
とだけ言った。
N駅といえば、ここから少し離れたところにある、比較的大きな駅だ。
けれど、そこに何があるというのだろう。
全然答えになっていないということは、つまりは教えてくれる気がないということだろうけど。
だからこれ以上は聞いても無駄だと思った私は、諦めるように息を吐いた。
車は国道をひた走り、運転するコウの顔は相変わらず暗いまま。
無表情で煙草の煙を吐き出すその横顔に、余計に不安ばかりが募っていく。