徒花


車はN駅のロータリーへと入った。

改札へと続く階段の前で、車は停車する。


無言のままに車から降りたコウは、私も降りるようにと促した。



そして階段の方を指差して、



「新幹線乗り場に行け。5番ホームだ。あと5分で発車する」

「……え?」

「行けばわかるから。そんでどうしたいかは、お前が決めろ」

「何? 何なの? ねぇ、コウ?!」

「行けよ、時間がねぇから」


そう言って、コウは私から顔を逸らし、背を向けた。

これ以上は聞ける雰囲気ではなかった。


私は不安と困惑の中、コウに言われた通りにきびすを返し、階段を駆け上る。


改札の前まで辿り着いたところで、ダボくんに会った。

だから聞こうと思ったのに、



「これ、入場券。場所は聞いた? 早く行きな」


早口にそれを手渡し、というよりは押し付けた形で、ダボくんは私の背中を押した。

やっぱりこの人ですら、教えてくれる気はないらしい。


私は息を吐き、また言われた通りに、入場券を改札へと通す。



さすがは大きな駅だけあって、人の往来が激しい。



人波をくぐり抜けてエスカレーターを登り、新幹線の入場口へと急ぐ。

そこからさらに、表示に従って5番ホームへと向かった。


そこで目にした人の姿に、私は驚きを隠せなかった。



「……何、で……」


何で、ここに?

私に気付いていない彼は、大きなボストンバックを手に、時計を気にしている。


切れ切れになる呼吸を整えながらも、その時やっと、『行けばわかる』と言ってたコウの言葉の意味を理解した。
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