徒花
もう一度会いたいと、切に願っていたはずの人が、今、目の前にいて。

でも、ほんとに会えるなんて思ってなかったし、ましてや突然すぎて頭の中は真っ白で。


立ち尽くしたままの私の方に、不意に彼の瞳が向いた。



「……マリア?」


びくりと肩が上がる。

彼は一瞬驚く素振りを見せた後、だけどもこちらへと駆け寄ってきた。



「てっちゃん……」


私の少し手前まで来て、目を見開きながら立ち止まったてっちゃんは、




「マリア! お前、どうしてここに……」


その瞳に困惑の色を浮かべながら、傍目にも見て取れるほどに動揺していた。


前よりも少しふっくらとした顔立ち。

金髪だった短い髪が、今は黒く、掻き上げなければならいほどに伸びていた。



「あの、えっと……」


言葉を探すようにして目線を下げた私に、てっちゃんは一呼吸置き、口を開く。



「もう会えないと思ってた。つーか、俺にはそういうこと言う資格もねぇし」

「………」

「何か夢見てるみたいだな。実際、改めて会うと、どんな顔していいかもわかんねぇや」


てっちゃんは少し困ったように、柔らかい顔をして笑う。

出会った時から、まるで自意識過剰の塊みたいな顔で笑っていた男が、と思うと、それがどこか可笑しくも思える。


てっちゃんのこんな表情、初めて見た。



「なぁ、こういう聞き方って悪ぃのかもしれねぇけどさ、元気してたか?」

「それなりにね」


そうとだけ、私は言った。
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