徒花
自分で『朝までコースだ』と言ったコウは、なのにさっさと立ち上がる。


すとん、と、体の中心に冷えた何かが落ちた気がした。

折角楽しかったのに。



それでも私は、できるだけ何でもない顔をして、コウの後を追った。



ふらふらしている私とは対照的に、コウの足取りはしっかりしている。

それが少し悔しかった。


玄関で靴を履いたコウはこちらに振り返り、



「俺帰ったら、鍵閉めて寝ろよ?」

「あ、待って!」

「ん?」

「上着、返したのに、また忘れてるよ。取ってくるから」

「いいよ」

「え?」

「また今度でいいから」


二度目の手口。

そうまでしても、持ち帰ってはくれないつもりらしい。


クリーニングにまで出したのにと、私が頬を膨らませると、



「まぁ、次は夜這いついでに来るから、覚悟しとけ」

「やだ」

「却下」

「何でよ」

「俺はそう何度も羊でいられるようなやつじゃないからだ」


偉そうに言わないでほしいものだ。

コウはケラケラと笑いながらまた私の頭をくしゃくしゃっとして、「じゃあな」と部屋を出て行った。


壁に寄り掛かっていた私は、そのままずるずるとそこに崩れる。



酒の所為なのか、何なのか、もうよくわからない。
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