徒花
断片的に映像として残る、クスリが抜けるまでの日々。

だけど、それには蓋をし、私は口角を上げた。



「てっちゃんは? 何か、公正施設がどうとかって聞いたけど」

「あぁ、ブチ込まれてた。散々殴られまくった挙句に、あんなとこ入れられて、そんでこの有り様よ。もうあの街にはいられねぇからな」


手元のバッグを一瞥し、わざとらしく肩をすくめる仕草を見せたてっちゃんは、



「まぁ、自業自得だっつー話だから、同情はいらねぇよ。自分が何やったかくらいはわかってる。マリアに対しても、謝っても許されねぇことしたんだから」

「………」

「俺、お前の人生、めちゃくちゃにするとこだった。一緒に楽しいことやりまくってたらいいやって、その程度しか考えてなかった」

「………」

「きっと、あのままの俺たちじゃ、ほんとに引き返せなかったと思うんだよ。だから今は、これでよかったって思ってる」

「………」

「俺すげぇ勝手なこと言ってるのわかってっけど、感謝してんだよ」


てっちゃんがまともなことを言ってる。

泣きそうなのに、なぜだかそんな些細なことに笑ってしまった。



「俺な、最後にもう一度だけ、マリアに会いたかった。会って、一言でいいから謝りたかったんだ」

「私もだよ」


そうだ、私もてっちゃんに謝りたかったんだ。

でも、てっちゃんの方が先に言う。



「ほんと好きだった。だけど、俺じゃ大切にはしてやれなかった。だから今度は、お前だけを大事にしてくれるやつのところで、幸せになれ」

「ありがとう、てっちゃん」

「うん」

「私、てっちゃんに感謝してるの。これはほんと。友達もいない、知らない街で、あの頃の私は、てっちゃんだけが頼りだった」

「うん」

「けど、私もう大丈夫だから。今度は間違わない」

「そうか」
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