徒花
私たちはふたりして、下手くそな笑みを交わし合う。



その時、後ろでガコッと何かの音がした。

振り向くと、こちらに向かって地面を転がってくる缶コーヒー。


それから目を上げた時、



「あ……」


私は思わず声が漏れた。



「……沙希」


沙希が、ひどく驚いた顔でこちらを見ていたから。

再会は、クラブで別れた時以来だった。



「沙希」


てっちゃんが沙希を呼ぶ。

沙希は恐る恐るこちらへと歩を進め、そしててっちゃんの横に立った。



「俺、今、沙希と付き合ってんだ」

「……え?」


戸惑ったままの私をよそに、てっちゃんは愛しそうに沙希の肩を抱いた。



「あれからずっと、沙希が俺のこと支えてくれてたんだ。クスリ抜くの、死ぬほど辛かった。すげぇ暴れた。でも、沙希はそんな俺の傍に、ずっといてくれた」


てっちゃんの言わんとしていることが、すぐにわかった。

私にとってのコウがそうであったように、てっちゃんにとってはそれが沙希だったんだ。



「最初はうぜぇとしか思ってなかった。俺はあれからもまだ、マリアのことしか頭になかったから」

「………」

「けどさ、ほだされたっつーか。思い返してみたら、今まで俺が一番仲よくしてたのって、沙希だったんだよな、って」


沙希は涙目で私に「ごめんね」と言う。
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