徒花


とぼとぼと駅構内を歩き、来た道を戻る。

だけど今は、どこか晴れやかな気分だった。


改札を抜けたところには、すでにダボくんの姿はなく、お礼を言いそびれたなと思った。


私はそのまま歩を進め、階段を下りた。

と、そこで目にしたのは、車のボディーに寄り掛かり、俯き加減で煙草の煙をくゆらせる、コウの姿。



その足元にはおびただしい数の煙草の吸殻が転がっていた。



「あ……」


私に気付いたコウは、一瞬、驚いたように目を丸くして、ため息混じりに、吸っていた煙草を足元へと落とした。

そして何とも言えない表情を浮かべる。


私はコウの元へと近付いた。



「てっちゃんに会ったよ」

「そっか」

「で、『今までありがとう』って言った。そんで、『ばいばい』って言ってきた。何かすがすがしい気分。胸のつかえが取れたっていうか、言えてよかったって心から思う」


私の言葉を聞いた瞬間、コウは大きな息を吐き、その場にへたり込む。

そして自分の頭をくしゃくしゃと掻き、上目に私を見た。



「もう戻ってこねぇのかと思った。戻ってきたとしても、テツ先輩と一緒に行くとか言い出すんじゃねぇか、って」

「え? 私コウと離れるなんて考えたこともないよ」

「いや、だって、お前……」

「私はただ、てっちゃんに会って、『ありがとう』と『ごめんなさい』を言いたかっただけなのに」


コウはあんぐりと口を開ける。



「マジかよ。だせぇな、俺。でもすげぇ怖かった。未練があって当然だろうし、負ける賭けだとしか思ってなかったから」

「心配しすぎだよ。てっちゃん、カノジョと一緒だったし。どのみち私とてっちゃんの間にはもうそういう感情はないから」

「ちょっと待って。え? 何? カノジョ?!」

「私の親友。で、今はてっちゃんと付き合ってるんだって」
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