徒花
誓い
10月になった。
コウはさすがにそろそろ働かなければマズイと思ったのか、いくつもの求人情報誌を広げ、ああでもない、こうでもないと言っていた。
もちろん私もまた働こうと思っていた。
けれど最近、体がだるくて、その上、食欲も湧かなくて。
コウが「無理せず寝てろ」と言ってくれることに甘え、私はほとんどの時間をソファやベッドで過ごしていた。
「おー。起きたか。まだしんどい?」
「うん。胃が痛くて吐きそう」
「マジか。病院連れてくか?」
「いいよ、大丈夫。どうせ風邪の引き始めだろうし。私、風邪引くとすぐ食べられなくなるから」
「だったらなおさら、病院行った方がいいよ。早めに治さねぇと、こじれるぞ?」
「だから、大丈夫だってば。熱が出たとかじゃないんだし」
心配そうな顔で言うコウの言葉を受け流す。
正直なことを言うと、私はただの病院嫌いだ。
待ち時間が長いからとか、医療費が高額だからというのもあるけれど、でもほんとのところは、トラウマがあるからで。
お医者さんは私の両親を助けてくれなかった。
もちろん両親は即死だったらしいし、お医者さんは神様じゃないんだから死んだ人を生き返らせることもできない。
けれど、あの頃の私は、トラックの運転手の所為に、コーヒーの所為に、お医者さんの所為にしていなければ、事実を受け止めきれなかった。
そういう根強い思いだけが残り、何となく、私は今も病院を敬遠してる。
「けど、お前最近、ほとんど食ってねぇじゃん。点滴だけでもしてもらえよ。あれかなり楽になるぞ」
「えー? 私、注射やだ」
「お前いくつだよ。女のくせにそんなこと言ってたら、子供産む時どうすんだっつーの」