徒花
10分後、帰宅したコウの手には、妊娠検査薬があった。
そのまま、私の方も見ずに手早く箱を開け、説明書にさっと目を通しただけのコウは、
「ラインが二本出たら妊娠してるってことらしいから」
とだけ言い、検査することを拒む私を無理やりトイレに押し込んだ。
それでも私は「嫌だ」と言い続けたが、コウは「だったら一生そこに閉じこもってろ」とドアの向こうで吐き捨てる。
私は泣きじゃくった。
でも、どんなに泣いたって、コウは私をトイレから出してくれなかった。
だからもう、確かめる以外になかった。
結果は陽性だった。
現実はどうしてこう残酷で、私の気持ちを考えてくれないのだろう。
結果を知ったら今度は恐怖で涙が引いて。
私たちはそれからしばらく検査薬にはっきりと出ている二本のラインを眺めながら茫然としていた。
けれど、その沈黙に耐えられなくなったのは私の方。
「私、どうすればいいの……」
先ほどと同じ、けれどもっと力ない言葉が漏れる。
コウはバンッとテーブルを叩いた。
「俺だって不安だよ! 怖ぇよ! いきなりすぎてほんとはパニクってるよ!」
「コウ……」
「けど、好きな女との間に子供ができてんだぞ? 俺の子だぞ? 嬉しい気持ちだってあるよ!」
コウは肩を震わせた。
「それに俺、家族がほしいんだよ。あったかい家庭を築きたいんだよ。血だけ繋がってるような関係じゃなくて、幸せに満ち溢れてるような家族がさぁ」