徒花
その時、コウの携帯が鳴った。

夜の10時に電話を掛けてきたその相手は、



「おー、ダボ。何? は? 今から?」


電話を切ったコウは、舌打ち混じりに私の方を向く。



「何か、『これから3人で出掛けよう』だって。もうこっちに向かってるらしい。あいつ、断る前に電話切りやがった」

「ふうん」

「でも、やっぱもう一回掛け直して、断っとくわ。こんな夜の寒空の下、妊婦を連れて行って、何かあったらダメだしな。あいつ、そういうとこ配慮しろって感じだよ」


リダイヤルのボタンに指を載せたコウ。

私は「待って」とそれを制した。



「ダボくん、この前寂しがってたし、少しくらいいいじゃない。断ったら余計、仲間外れにしてるみたいだし」

「けど……」

「私なら大丈夫だよ。厚着するし。それに、もし気分悪くなったら、ちゃんと言うから」


ダボくんが私を気遣ってくれてないはずはない。

でも、それ以上に大事な何かがある気がしたから。


コウは「わかったよ」と言った。


私は厚手の上着を羽織って、コウと一緒に部屋を出た。

マンションの下には、ダボくんの車が待ち構えていた。



「よー。悪いな、こんな時間に」

「ほんとだよ」

「まぁ、そう言わずに、乗れって」

「俺らをどこに連れてく気だ?」

「いいとこだよ。探すの、苦労したんだから」

「だから、どこだっつーの?」

「内緒。でも、お前ら絶対、あとで俺に感謝するはずだから」


私とコウは顔を見合わせて首をかしげた。


ダボくんは私たちを後部座席に座るようにと促す。

笑顔が何だか不気味だった。

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