徒花
車に乗ってから、もう一時間以上は経ったんじゃなかろうか。
さすがの私も眠くなってきた。
うとうとし始めた頃、「到着ー」というダボくんの声に意識を引き戻された。
「着いたの? ここ、どこ?」
寝惚けまなこできょろきょろする私をよそに、ダボくんとコウはさっさと車を降りる。
だから私も慌ててそれに続いた。
車を降りて驚いた。
「……何、ここ……」
木々に囲まれ、ライトアップされた洋館らしきそう大きくはない建物。
寝起きでまだわけがわからない私をよそに、コウは「ははっ」と笑った。
「お前、すげぇな。これどうした?」
「知り合いのツテでね。30分だけ鍵開けてもらったんだよ」
「ってことは、入っていいんだ?」
「もちろん」
ふたりは目配せし合い、私に「行こう」と言った。
何だかわからない場所で手を引かれる。
確かに寒さで眠気は吹っ飛んだとはいえ、足元がおぼつかなくて、私は転ばないように必死だった。
だから周りをよく見ていなかった。
コウとダボくんは先に進む。
大きな木の扉を開られ、そこでやっと、私はここがどこだかを理解した。
「すごい……」
アーチ型の白い天井。
椅子が並べられ、中央へと続くのは赤い絨毯。
ダボくんはスキップ混じりに絨毯の上を進み、一段高い場所に立って振り向いた。