徒花
「チャペルだよ。もちろん本物の。今だけは、ふたりのための貸し切りだ」

「してやられたな」


コウは苦笑いで漏らす。



「まぁ、牧師を雇うほどの金はなかったけどさ。俺が見届け人ってことで。雰囲気だけでもそれらしい感じっしょ?」

「だな」

「ちょっと遅くなったけど、コウの誕生日と、あとは門出を祝うっつーことで。ほら、何やってんだよ。ふたり共、早くこっち来いって」


促されるまま、私たちは、赤い絨毯――ヴァージンロードの上を進んだ。



静かで、清廉で。

私は祭壇の前で背筋を伸ばす。


私たちだけの結婚式が始まった。



「で? えーっと、何だっけ?」

「『病める時も健やかなる時も』だろ」

「あぁ、そうそう。病める時も健やかなる時も、……何だっけ?」


ここまで段取りしておいて、引き締まらないダボくん。

コウは肩を落としてため息を吐き、



「もういいよ、適当で」

「オッケー。じゃあ、適当に」


ゴホン、と咳払いひとつしたダボくんは、改めて私たちに向き直った。



「コウ。お前、何が何でもマリアちゃんのこと幸せにしてやれよ。絶対泣かすな。そんで、ちゃんと守ってやれ」

「言われなくてもわかってるっつーの」

「誓うか?」

「誓うよ。当たり前だろ」


偉そうな新郎だ。

でも、その答えに満足そうなダボくんは、今度は私に目をやる。



「マリアちゃん」

「は、はい」
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