徒花


帰りの車内でも、ダボくんはまた思い出したように腹を抱える。



「やばい、笑いが止まらない! コウが『愛してる』だって! こんな面白いもん見ることができて、俺も内緒でセッティングした甲斐があったってもんだよ!」

「お前、ちょっと黙れよ。二度と言うな。前見て運転しろ」

「だって、これが笑わずにいられるかっつーの! あー、最高!」


何だか私まで笑われてるみたいだ。

コウと私は同じように頬を膨らませる。



「そんなこと言って、ダボくんだっていつかは結婚するんだし、その時は同じじゃない」


照れ隠しで私は語気を強めるが、ダボくんはルームミラー越しに「どうかな」と、急に声のトーンを落として曖昧にだけ笑う。

先ほどまでの勢いはどこへやらだ。


コウは急に真面目な顔をした。



「なぁ、ダボ」

「んー?」

「俺、ずっと考えてたんだけどさ」

「何だよ?」

「お前の本心はどこにある?」


私とダボくんは同時に「え?」と声を漏らす。

『本心』って、どういう意味?



「俺の勘違いだったらいいんだ。けど、もしそうじゃなかったとしたら、お前はもしかして初めから――」

「コウ」


コウがみなまで言う前にそれを制すダボくん。



「思い過ごしだよ。それにそんな話、今はいいだろ」

「いや、でも……」

「コウ。やめろ。それ以上言うな」


ルームミラー越しに睨むダボくん。

コウは「わかったよ」と返して押し黙る。
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