徒花

子供



病院に検診に行った。

赤ちゃんは順調に育っていて、予定日は5月末になるらしい。


気の早いコウは「まだ性別わかんないの?」と言って、先生を困らせていた。


検診が終わったのはちょうどお昼で、私たちはこの前と同じようにカフェに入り、ランチがてら休憩する。

この後、ふたりで役所に婚姻届を出しに行く予定だ。



「やっべぇな。さすがの俺も緊張してきたよ」


コウは頭を掻いて、シャツの胸ポケットをまさぐる。

そこから出てきたのは、小さく折り畳まれた紙。



「ちょっ、それ!」

「ん? 婚姻届だけど。何?」


煙草の箱と同じくらいのサイズにされてしまった婚姻届は、折り目だらけだった。

ふたり分の戸籍謄本も一緒に折り畳まれている。


私は絶句した。



「いや、『何?』じゃなくてさ。どうしてそんなとこに入れてるのよ」

「だってこうしなきゃ入らねぇじゃん」

「手で持てばいいでしょ! 大事なものなのに、そんなにぐちゃぐちゃにしないでよ!」

「ぐちゃぐちゃじゃねぇよ。綺麗に折ってるもん」

「私はそういうことを言ってるんじゃないでしょ!」

「でも失くすよりはいいだろ」


信じられない。

それで受理してもらえなかったらどうするんだ。


だけど、もう折り目だけらになってしまったそれを元には戻せないから、私はこめかみを押さえてため息を吐いた。



「俺はな、大事なもんは肌身離さず持ってねぇと不安なの。何怒ってんの?」


言っても無駄だと思った。

私は投げやりに「もういいよ」と口を尖らせる。
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