徒花
「食ったならさっさと行こうぜ。役所に行って、その後は買い物だ。子供のもん揃えねぇとだし」

「ほんとに気が早いよね」


笑いながらも席を立った。

その時だった。


コウの携帯が鳴るが、ディスプレイを確認したコウは怪訝な顔でそれを私に見せる。


登録されていない番号からだった。

コウは不審そうに首をかしげながらも、通話ボタンを押した。



「はい? え? ……ユキチ?」



ユキチくん?



「お前、ほんとにユキチか?! どこにいるんだよ! 今、何やってんだ?!」


そうとわかるや否や、電話口に向かってまくし立てる。

私も驚きと混乱でどきどきしながら聞き耳を立てた。



「わかった。すぐにそこに行くから」


電話を切ったコウは私に振り向く。



「ユキチ、今こっちに戻ってきてるらしい! んで、駅の近くのファミレスにいるらしいから!」


「行こう!」とコウは言うけれど、私は首を横に降った。

私まで行っていいはずがない。



「……マリア?」

「私、行かない。行けないよ」

「はぁ?」

「だって、私ユキチくんに嫌われてるし。せっかく会えるのに、私がいたらユキチくんまた怒っちゃうかもしれないよ。そしたら本当にもう二度と会えなくなるかもしれない」


コウは一瞬、考えるように顔をうつむかせたが、でもすぐに私に目をやり、



「俺はユキチに何を言われようと、マリアを選んだんだ。あいつには悪いけど、やっぱりそれを認められないっていうなら、俺とユキチはそれまでだ」
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