徒花
「コウ……」

「ユキチがマリアを悪く言うなら、俺がぶっ飛ばしてやる。だから大丈夫だ。行こう」


喧嘩はダメだって言ったのに。

でも、その揺るぎない気持ちが嬉しくて、私は「うん」とうなづいた。


ここから駅までは近い。


私はコウに手を引かれながら、早足で歩く。

私の手を引くコウは、私を気遣いながらも、気ばかり焦っているみたいだった。



ファミレスにひとりでいるユキチくんを見つけたのは、それからすぐだった。



一目でわかった。

ユキチくんは何も変わってはいなかったから。


でも、それもそうだろう、長く思えても実際は、あれから一ヶ月ほどしか経っていないのだから。



「ユキチ……」

「おっ、早ぇな。元気してたか? コウ。お前、ちょっと太ったんじゃね?」


ユキチくんはのん気だった。



「そんなことはどうだっていいよ! あれからのこと、ちゃんと説明しろ!」

「大声出すなって。とにかく座れよ」


コウは舌打ち混じりにユキチくんの向かいへ座る。

私も恐る恐るその隣に腰かけた。


ユキチくんはそんな私を一瞥し、



「マリアちゃんも、久しぶりだね」

「え? あ、うん」

「ダボから聞いたけど。今も仲よくやってるらしいじゃん」


ユキチくんは、何をどこまで聞いたんだろう。

もし私が妊娠したと知ったら、コウの元カノの幼馴染であるユキチくんは、どう思うだろう。


私は何も言えなかった。
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