徒花
怒った顔でコウは詰め寄る。

ユキチくんは舌打ち混じりに頭をくしゃくしゃっと掻き、



「悪かったよ。とりあえずそれは謝っとく。もちろん俺の本心からだ」

「………」

「けどまぁ、確かに、何も企んでないって言ったら嘘になる。でも、それはコウがどうこうって話じゃなくて」

「何が言いたいのかわかんねぇよ。はっきり言えよ」


急かすコウ。

ユキチくんは息を吐いた。



「コウのことについては、さっき言った通りだ。だけど、同時に別問題として、カイのこともあった」


カイくんのこと。

改めて言われると、言葉に詰まる。



「ヤクザになったらしいじゃん、あいつ。でも俺、それだけは認めらんねぇんだよ。他の何を認めたとしても、それだけは、認めていいはずがねぇ」

「………」

「どんな理由があったってだ。俺は幼馴染が地獄に落ちていく様を黙って見てるなんてことはできねぇんだよ。たとえ、あいつ自身がそれを望んでたとしても、俺はあいつを止めてやるって決めたんだ」


ユキチくんが真面目に話すのなんて、初めて見た。

その勢いに圧倒された。


きっとこの人は、他の誰より正義感が強いのだろう。



「あいつは昔からそうだ。自分のことなんて誰にも話さない。悩んでたって、それをおくびにも出さない。俺にさえだぞ?」

「………」

「けど、それは俺が頼りねぇから悪いんだと思った。俺がもっと立派なやつだったら、あいつも少しは自分のことを話してくれてたかも、って」

「………」

「償いたいだけなのかもしれねぇ。あいつを救うことで自分も楽になりてぇだけなのかもしれねぇ。俺はほら、自分本位なやつだから」

「………」

「それでも、手遅れになるよりはいいと思うんだよ。『しない善よりする偽善』っていうけど、そんな感じ? 何もしないで後悔が増えるよりはずっといいから」
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