徒花
「そんで、少ない糸口を辿ってやっと見つけたんだよ。あの時は死ぬほど嬉しかった。次は富士の樹海でも探そうかと思ってたところだったんだから」


またギャグなのだろうか。

でもユキチくんは、今度は『突っ込めよ!』とは言わなかった。


ユキチくんは千夏さんを見やり、



「千夏。カイのことは話しただろ?」

「あ、……うん」

「お前、あいつのこと説得してくれよ。それができるのはお前だけだ。自分でもわかってんだろ?」


言われた千夏さんは苦笑いする。

図星を突かれて困ったような顔だった。



「やっぱりゆきちゃん、気付いてたんだね」

「もっと早く気付けてたらとは、今になって思うけど。つーか、カイも言えよって感じじゃね?」


千夏さんはまた苦笑い。



「でも、ごめんね。無理だよ、私には」

「何で?」

「私にとっては、カイはゆきちゃんは同じなの。大切な幼馴染だけど、それ以上じゃない」

「お前はそうでも、カイはそうじゃねぇだろ。それに今はお前の気持ちどうこうじゃねぇんだよ」


ユキチくんの言い分は身勝手なのだと思う。

さすがの千夏さんも顔を伏せた。



「言いたいことはわかるけど、無理なものは無理だよ。私はカイを救えない」

「だから、何で!」

「私はカイの気持ちを知ってた。知ってて知らないフリを続けてた。それなのに、都合のいい時だけカイに頼って、結果的にはカイの気持ちを利用した、私がだよ?」

「中絶した時のことか? でもそれはあいつ自身が納得してやったことで……」


わざとはっきり言葉にしたのかどうかはわからないけれど、目の前にコウがいてもユキチくんは気にしてないらしい。

それほどまでにカイくんのことを助けたいのだとは思うけど。


さすがの私も哀れに思う。
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