徒花
「こうなったのは、他の誰でもなく、私の所為じゃないの。私がカイを追い込んだんじゃないの。そんな私が、今更カイに何を言えるの?」

「……それ、は……」

「カイがコウを恨むようになったのだって、元を正せば私が馬鹿だったからだよ?」

「そう思ってんだったら余計、お前がカイを救ってやれよ!」

「……できないよ」


最後は絞り出すような声だった。

千夏さんは唇を噛み締める。



「私なんかに何ができるって言うのよ! 私が嘘でもカイに好きだからそんなことしないでって言えばいい? それで解決することなの?!」

「………」

「私はもうカイに期待させたくない! これ以上、傷つけたくないよ! 何よりカイだって私の嘘くらいすぐに見抜いて怒るに決まってる!」

「………」

「私は何もできないの……」


声を詰まらせ、涙を浮かべた千夏さん。



何もしないというのは、ひどいことなのかもしれない。

でもそれは、カイくんを想えばこそなのだと思う。


“偽物”じゃもう、意味はないから。



「泣くなよ、千夏。お前は悪くないから、自分を責めるな」

「コウ……」

「千夏だけじゃない。マリアだって悪くない。悪いのは、全部俺だ。だからこれはもう、俺とカイの問題なんだよ」


その言葉はきっと、その場しのぎなんかじゃないのだと思う。

コウはすべてを自分が背負うつもりなのだろう。


ユキチくんは舌打ちする。



「お前が何かしたところで、カイにとっては火に油を注ぐだけだろ」

「でも、いくら燃やしたって、燃やすもんがなくなりゃいつかは火は消えるだろ」

「あいつの復讐心がそう簡単に消えりゃ苦労しねぇよ。馬鹿じゃねぇの。カイがコウを殺して満足するっつったら、てめぇ死ぬか?」

「死ぬかよ。頼まれても死なねぇ。ふざけんな。それに俺が死んで満足するなら、あいつはとっくに俺を殺しにきてるだろ」

「じゃあどうすんだよ!」
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