徒花
「顔青いね。大丈夫? しんどくない?」

「え? あ、うん。ずっと座ってたらきついっていうだけで。でも平気だし」

「それは『平気』って言わないんだよ。隣にいる旦那も、同じように熱くなっちゃって。何でそういう大事なことに気付いてやれないかな」


ダボくんは肩をすくめた。

コウは「うるせぇな」と舌打ち混じり。



「とにかくこの場は俺が一旦預からせてもらうよ。この馬鹿と一緒にね」


ダボくんはユキチくんの首根っこを掴んだ。

「おわっ!」と間抜けな声を出すユキチくん。



「離せよ、馬鹿! 俺の話はまだ終わってねぇんだよ!」

「はいはい、わかったから。続きは俺が聞いてやるから、ユキチくんはまずお外の空気を吸って深呼吸しましょうねー」

「おい! やめろって!」


ユキチくんは暴れるが、子供をあしらうようにまた「はいはい」と言いながら、ダボくんはユキチくんを引きずって行った。



やっと静かになった。

気を張っていた私は疲れ果てて息を吐く。


そこで同じように息を吐いた千夏さんと目が合い、互いに曖昧な笑みを返す。



「ゆきちゃん、あんなんだけど、悪い人じゃないんだよ。ただ、ガキ大将気質っていうか、自分が認めてないものを許せないだけなの」

「了見が狭いんだよ、あいつは昔から」

「コウだって似たようなものだったじゃないの。自分の意見ばっかりで、人の言うこと聞かなくて」

「嫌味かよ」

「嫌味よ。でも、私にだってそれくらい言わせてくれてもいいでしょ」


コウは口元を引き攣らせた。

どうやら返す言葉もないらしい。


私は安堵感から思わず他人事のように笑ってしまった。



「やだもう、俺帰りてぇよ。何でこの3人になってんだよ」

「泣きごと言っちゃって。この状況が辛いと思うなら、少しは自分のしてきたことをかえりみなさいよ」

「かえりみてるよ! そりゃもう、心の底から! だから説教すんなって!」
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