徒花
背景
コウと付き合うことになった。
私の毎日は少しだけ変化した。
「マリアがここに来るなんて、久々じゃない?」
馴染みのクラブで、沙希は私を見つけるなり、物珍しそうな顔をする。
「てっちゃんも心配してたよー?」
「あいつが、私を? ありえない」
「呼ぶ?」
「呼ばなくていいよ。うざいし。それにあいつ、どうせ今頃、女と一緒でしょ」
「まさか、それで嫉妬してるとか?」
「何でそうなるのよ」
私はフロアに目をやった。
テクノ系の音楽に、馬鹿みたいに体を揺らす人の姿は滑稽だ。
私はそれを鼻で笑う。
「っていうか、私、カレシできたんだよね」
「はぁ?!」
「だから別にてっちゃんがどうしてようと関係ないし」
なのに、沙希は私に詰め寄るように顔を近づけ、
「マジで言ってんの?! あたしそんな話聞いてないんだけど!」
「いちいち言わなきゃいけないことでもないでしょ。高校の頃じゃあるまいし」
私と沙希は高校の同級生だった。
とはいえ、卒業して、それぞれ別々に過ごしているのだから、あの頃と同じように、何でも包み隠さず話せなんて、無理がある。
私の言葉に沙希は不貞腐れたように肩をすくめ、
「まぁ、あんたがそれでいいなら、いいけどさ。でも、カレシなんか作ったところで、続くとは思えないけどね」
沙希が言いたいことはわかってる。
けど、でも、だからこそ、私は腹が立った。