徒花

考え方は人それぞれだし、私はそれをどうこう言える立場じゃない。


でも、千夏さんのことを冷たい人だとは思わない。

肩を震わせながら「これでよかったんだよ」と何度も言う千夏さんは、必死で自分に言い聞かせているみたいで。



「……ごめんな」


コウはやっぱり謝ることしかできないらしい。

千夏さんは席を立った。



「帰るね。私はもうここにいちゃいけない人間だから」

「千夏」


コウはそれを制し、



「俺、マリアと結婚するから。父親になるんだ」


千夏さんは驚いた顔をしたが、すぐに涙を拭ってほほ笑んだ。



「おめでとう、コウ。幸せになってね」

「お前もな」

「もう浮気なんかしちゃダメよ。って、私に言われたくないだろうけど」


そして千夏さんは私に目を移し、



「体、大事にしてね。丈夫で、コウに似てない子を産んで。って、これも私が言ったら嫌味みたいだけど」

「ありがとう。頑張るよ。って、私も嫌味みたいだね」

「いいじゃないの。私は好きよ、そういうの。それにコウには百万回殴るよりこういう精神攻撃の方が効くんだから」


おもしろい人だ。



「じゃあね」


千夏さんは笑みを残していなくなった。

今更、少し彼女に嫉妬した。



「いい人だね、千夏さん。私、友達になれる気がするよ」

「勘弁しろよ、もう。冗談になってねぇし。いや、本気で言ってるなら余計ダメだけど」