徒花
「板挟みだった心境は?」

「死ぬほど疲れた。女は怖い。生まれてくる子は男の子がいいと思った。とりあえず今は早く帰りたい」

「どこに?」

「って、おい。頼むよ。俺もうお前にまで捨てられたら本気で死ねるから。追い出さないでください、お願いします」


コウは生気を抜き取られたような土色の顔をしている。

こうべを垂らすコウを見て、私は腹の底から笑った。



「まぁ、千夏さんのことは置いとくとして」

「ユキチのこと?」

「うん」

「どうするかねぇ、あいつ。言ってることわかんねぇわけじゃねぇけど、困るよ」

「放っとくの?」

「いや、もう一回ちゃんと話すわ。今度はダボも含めて3人で。そしたら少なくとも、さっきみたいにはならないだろうから」

「そっか」

「俺も言い過ぎたとこあるし。次はあいつに謝ってやれるといいんだけど」


コウは言いながら、私の頭を撫でた。



「ごめんな、マリア。しんどかったろ? 気付けなくて、ごめん」

「大丈夫」

「さっきも言ったけど、俺が何とかするから、お前は心配すんな。子供のことと体のことだけ考えててくれ。こんなことの所為で流産させられねぇからさ」

「不吉なこと言わないでよ。それに私のお腹の中にいる子は、『丈夫で、コウに似ない子』だよ。心配しないで」

「いや、それの方が不吉だろ。逆にすげぇ心配だし。それともまさかまだ俺に対する精神攻撃が続いてんのかよ」


コウは思い出したように「ほんともうやだ」とこめかみを押さえた。

息を吐いたコウは、



「でもさ、どんな顔してても、たとえ病弱だったとしても、俺とお前の子は世界で一番可愛いはずだよ」

「親馬鹿だね」


私は笑う。

コウも困ったように笑った。

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