徒花
夢想
今日は本当に疲れた。
ファミレスを出てから、私たちはどちらからともなく帰ろうという話になった。
「婚姻届の提出も、買い物も、明日にしよう」
「だね」
「あーあ、せっかく今日で結婚できると思ってたのに」
「じゃあ今日は、“結婚記念日イブ”とか、“結婚記念日になりそこねた日”ってことで、お祝いでもする?」
「それって全然めでたくねぇじゃん」
コウは呆れたように肩を落とす。
私は笑った。
駅の方に向かってふたりで歩いている時だった。
コウの携帯が鳴った。
「おー、ダボ? ……え?」
コウの声が低くなる。
ただごとではないような雰囲気だ。
コウは険しい顔で2,3相槌を打ち、
「わかった。とにかく俺が行くまで待ってろ」
電話を切った瞬間、コウはきびすを返してどこかに向かって走り出した。
マリアも行こう、とは言われなかった。
だからだろうか、とてつもなく嫌な予感がして、私も慌ててその後を追う。
「コウ!」
呼び止めてもコウは足を止めてはくれない。
振り返りもしないコウの背中を必死で追いながら、本当に何があったのだろうと思った。
コウのさっきの顔が怖かったから。