徒花
大通りから一本中に入り、商店の裏口が多く並ぶそこに、人影はまばらだった。
「ダボ!」
コウが脇目も振らずに駆け抜けた先にいたふたり。
うずくまるユキチくんと、それを支えるように肩を貸すダボくん。
ユキチくんが押さえている脇腹からは、鮮血が滲んでいた。
「ユキチ、大丈夫か? 救急車は?!」
「さっき呼んだ。もうすぐ来るはずだから」
ダボくんは早口に言う。
息を切らしながら、私には何が起こっているのかまるでわからなかった。
ユキチくんは顔を歪ませる。
「コウ。俺は……」
「喋るな」
「俺は自分でやったんだ。別にこんなもん、平気、だから」
『自分でやった』ようにも、『平気』にも見えないのに、ユキチくんはそれでも肩で息をしながら気丈に言う。
「カイは悪くない。カイが俺を刺したわけじゃない」
最後の方はうわ言のようだった。
そのままユキチくんは目を瞑る。
「おい、ユキチ! しっかりしろ!」
「コウ、やめろ。大丈夫だ。気失っただけだから」
ダボくんは努めて冷静に、でも焦りから早口に言う。
コウは「くそっ!」と作った拳を地面に叩き付けた。
そして充血した目で顔を上げ、
「カイがユキチを刺したんだな?」