徒花
クラブを出たところで、携帯が鳴った。
コウに呼ばれた私はいつものショットバーに急ぐ。
店のドアを開けたら、コウはひとりでカウンターに座っていて、私を見つけて片手を上げた。
「おー。早ぇな」
私もコウの隣に腰を下ろす。
バーテンは何か言いたげに、笑いを含んだような顔。
だから私がべーっと舌を出すと、動じることはない彼は、「サービスです」と私にギムレットを差し出した。
「どういう仲なんだか」
そのやりとりを見ていたコウは、笑いながら、
「浮気したら殺しちゃうよ」
目を細め、冗談とも本気ともつかない言い方をする。
だから私はわざとおどけたように、
「じゃあ、ずっと飽きさせない男でいてね」
「上等」
そして私たちは乾杯する。
美味い酒を、好きな人と、好きな店で傾ける。
これ以上の至福はない。
「それより、どうして今日はひとりなの? 友達は?」
「いいよ、あいつらは。それに邪魔されたくねぇじゃん」
「ふうん」
まぁ、来てほしいとも思わないけれど。
「あ、ビリヤードするか?」
「私ほとんどしたことないんだよね。ルールもあんまりよくわかんないし」
「マジで? じゃあ何でこんな店に入り浸ってんだよ」