徒花
私はパニックだった。


死なないで。

死んじゃダメだよ、コウ。



でも、私の意志とは無関係に、コウの体中から血が溢れてきて。

腹部を押さえても手の隙間からまた垂れ流れてきて。



「コウ! やだ! コウ!」

「……マリ……ア……」


それでもコウは這うように動こうとする。


だくだくと溢れる血。

ひゅう、ひゅう、と聞こえる呼吸音。



「……帰ろ……、マリ……早く……っ……」

「コウ!」

「……俺たち……は……たりで……っ……幸せに、子供も……、だから……」

「…………コウ?」


動かなくなったコウを揺する。



「ねぇ、コウ?」


嘘だと思いたかった。

こんなの信じられるはずはない。



「コウ! 起きてよ! 帰るんでしょ! ねぇ!」


コウの腕を持ち上げようとしたのに。

驚くほど重くなったそれは、だらんとしたままで。


私は泣きながらコウの名前を呼び続けた。


カイくんは横で狂ったように笑っている。

笑いながら、泣いていた。



「コウは死んだんだよ!」
< 275 / 286 >

この作品をシェア

pagetop