徒花


カイくんは逮捕されたけれど、そんなことはどうだってよかった。


コウの葬儀のすべてはコウのお父さんが執り行ってくれた。

たくさんの人が声を上げて泣く中で、私ひとり泣けずにいた。



これが現実だとは思えなかった。



コウが本当に死んだなんて思いたくなかったし、呼べばまた目を開けてくれそうで。

だってコウは、私にたくさんの約束をしてくれたのだから。


優しくて私に甘いコウが、それを守ることなく、私を――私と赤ちゃんを、残して死んでしまうはずがないじゃない。



「何で死んだんだよ、コウ!」


術後で、本来ならばまだ病院で絶対安静のはずのユキチくんは、人目もはばからずに涙声をあげる。



「俺まだ謝ってねぇんだぞ!」

「やめろ、ユキチ」

「俺ら、喧嘩したまま終わるのかよ! 何とか言えよ、コウ!」

「ユキチ!」

「俺のこと恨んでんだろ! 俺の所為でこうなったんじゃねぇかよ! ……頼むから何とか言ってくれよ……」


コウはそんなこと思ってないよ。

と、ユキチくんに声を掛けたかったのに、できなかった。


気だるくて、吐きそうで、私はあれ以来、喋ることもままならない。



「マリアちゃん、大丈夫? 少し横になった方がいい」


ダボくんの気遣いにも、私は首を横に降った。



「少しいいかい?」


顔を向けると、コウのお父さんだった。

今まで葬儀の準備や挨拶まわりで動き続けていたコウのお父さんに、初めて声を掛けられた。


私はうなづき、よろよろと席を立つ。
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