徒花


季節外れの寒桜が咲いていた。


火葬場の煙突から立ち昇る煙を見つめながら、ダボくんは目を細める。

よく晴れた、雲ひとつない空に吸い込まれる煙を、ただ黙って、私と一緒に見ていてくれた。



それはとても不思議な光景だった。



「コウ、昔よく『俺は世界征服がしたい』って言ってたけど、あんな空の上からなら、それも夢じゃないのかもしれないけど、何もこんな叶え方しなくてもいいのにな」

「コウらしいじゃない」


私が肩をすくめると、ダボくんは苦笑いだけを向けてきた。

ダボくんは、私の前では悲しみを顔に出さないようにしてくれているのだろう。


随分と心配させてしまったらしい。



「本当にもう大丈夫?」

「大丈夫だってば」


それでも不安そうな顔をするダボくんに、私は、



「正直に言うとね、さっきまでは、私も一緒に死のうって思ってたんだ。子供と一緒にコウのとこに行こう、って」

「………」

「私のパパもママもおばあちゃんも向こうに行ってるし、コウもいるなら、そっちの方がいいじゃない? もうこんな世界に固執する理由はないんだし」


私の言葉にダボくんはまた苦笑いする。

私は「でも」と言葉を切った。



「でもね、コウのお父さんと話してる時に思ったんだ。私を守って死んだコウが、私が死ぬことを嬉しいとは思わないはずだ、って。それにコウはきっと成仏なんてしないよ」

「……え?」

「天国には行けないだろうけど、素直に地獄に行くとも思えないし。最期まで家に帰りたいっていう未練だらけだったあの人のことだし、多分、今も私の近くにいるはずだもん」

「………」

「だから、私は今もひとりじゃないって思えるから、大丈夫」


ダボくんは「そっか」と言った。



「ほんとはさ、今、俺がマリアちゃんを支えるよ、とか言おうと思ったんだけど。でも無理だなぁ、って。やっぱり俺はコウには勝てないし、コウ以上にはマリアちゃんを愛せないだろうから」
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