徒花
「カイ」

「だって、そうだろ。お前がだよ? 一生ヤリチン宣言してたような人間が、いきなり一途になるなんて」

「カイ!」


コウは、カイくんとやらを向こうに引っ張って行って、ふたりでこそこそと何か話していた。

でもすぐに戻ってきて、「こいつ、カイ」と私に紹介する。



「そっちがユキチで、あれがダボ。あとは後輩が色々と」

「どうも」


私はほとんど棒読みだった。

正直、いちいち名前を覚えるのも面倒だった。


なのに、にやにやと笑ったカイくんは、



「マリアちゃん、でしょ? よくこんな男と付き合う気になったね」

「はぁ」

「コウって子供みたいなとこあるっしょ。なのに、顔だけはいいから、モテちゃって。母性本能をくすぐるのかねぇ? 俺にはよくわかんないや」

「はぁ」


帰りたくなった。

コウも横でイラついたように煙草を咥える。



「もういいだろ、カイ」

「何言ってんだよ。ビリヤード、するつもりだったんだろ? 俺らも混ぜろよ」

「無理。特に、カイが。お前と一緒にいたら余計なことをべらべら喋られる」

「でも全部ほんとのことじゃん」


あっけらかんとして言い放つ。

コウは返す言葉もないといった顔。


私は思わず声を立てて笑ってしまった。



「マリア」


呆れた顔のコウは「行くぞ」と私の腕を引いた。



「こいつらといると毒牙に掛かるからな」
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