徒花
ふらっと足を向けたのは、馴染みのショットバー。
カウンターと、ビリヤードの台が6つあって、人の騒ぐ声とキューを弾く小気味いい音がいつも響いている、暗がりな店。
別に私はビリヤードなんかに興味もないのだけれど、でも遠巻きに他人を見ているのが楽しかった。
若者の集団、ネクタイを外したサラリーマン、イチャつくカップル。
私は今日もカウンターでギムレットを傾けながら、頬杖をついてそれを眺める。
と、その時、ひとりの男と目が合った。
「あ……」
けれど私は、肩をすくめて目線を外す。
またあいつだ。
ここに通うようになってすぐの頃から、常連らしいあいつはいつもいて、そしてたまに目が合って。
話したことはないけれど、でも居心地がいい話じゃない。
不良みたいなグループの中で、リーダー格らしいことは、見ていればわかる。
だから私は、関わりたいとも思わない。
「ねぇ、今日のギムレット、何か薄くない?」
「やだなぁ。いつもと一緒ですってば」
「ほんとに? 絶対、薄めてるでしょ」
カウンターの中のバーテンと談笑していた時、
「なぁ」
後ろから声を掛けられて、顔を向けた瞬間、私は目を見開いた。
いつも目が合うだけだったはずのあいつが、なぜか私の隣に座る。
「何やってんの?」
「お酒飲んでるけど。見ればわかるでしょ」
「だな。いっつもひとりで飲んでるもんな」
やはり、確信犯だったのか。
でも、どうして今日に限って?