徒花
カイくんは「ばいばーい」と私たちに向かって手をひらひらとさせる。

コウは中指を立てて見せ、振り返りもせずに店を出た。


騒がしさから解放され、ほっと息をつく。



「ほんと、あの馬鹿は」

「知られたくないことが山ほどある、って顔」

「うるせぇ」


完璧に不貞腐れたらしいコウは、まだぶつくさと言っていた。

私は無視して伸びをする。



「あーあ、お酒、飲んでる途中だったのに」

「悪かったよ。もうめんどくせぇから帰って飲み直そうぜ」

「じゃあ、DVD借りて帰ろうよ。この前のやつの続き、気になっちゃって」

「俺もー。あの展開はやべぇよ」


私たちは付き合って以来、二日と間を置かずに会っている。

と、いっても、大抵はいつもコウが勝手にうちに押し掛けてくるのだが。


結局、珍しく出歩いても、私たちは家で過ごすのが似合いなのだろう。


それから、レンタルショップでDVDを借りて、コンビニでお菓子やビールを大量に買って、私の家へ。

コウはもう慣れたものだった。



「なぁ、これ食っていい?」


勝手知ったるように冷蔵庫を漁り、チーズを取り出していた。


私はDVDをセットしてビールのプルタブを開ける。

クッションを抱いて、オープニング画面になった映画に集中しようとしているのに、



「なぁ」


コウは構わず声を掛けてきた。



「さっきのことだけどさぁ」

「何?」

「カイが言ったこと、気にすんなよ」
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