徒花
話半分だったが、思わず私はそれに「え?」と顔を向けた。

コウもビール片手に私の隣へ。



「過去だし。今はマジでお前だけだから」


そんなの気にしてもなかったのに。

でも、コウが真面目な顔で言うから、私は笑った。



「『浮気したら殺しちゃうよ』だっけ? コウの方こそ」

「しねぇよ。する気もねぇ。他の女なんかいらねぇし」

「へぇ」

「何だよ? 信じろって」


必死そうに言って、私の肩を抱く。



「ちょっと、くすぐったいよ。映画観られないじゃない」

「いいだろ、そんなもん後で」

「もう、そればっかり」


それでも、コウが私を引き寄せるから、抗えない。

キスをされて、声が漏れる。



何だかんだで私もどうしようもない。



コウのことが好き。

何がどうとか、どこがどうとかじゃないけれど、でも一緒にいると不思議と愛おしく思えてしまう。


もしかしたらこれが、カイくんが言う『母性本能』というやつなのかもしれないけれど。


だけど、そんな難しいことはよくわからないから、私は目の前にある熱に身を委ねる。

堕ちて、堕ちて、私たちはより深みにはまっていく。




コウの目には、そういう力があるんじゃないかと、白濁した脳で考える。




「すっげぇ愛してる」


私もだよ。

と、言えたかどうかもわからないまま、私は一筋の涙を零した。

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